鯰絵(なまずえ)① 松本の浮…

松本ジャポニスム実行委員会

2022年11月09日 22:45

鯰絵(なまずえ)①

松本の浮世絵博物館に行ってきた。今回の企画展は「優品でたどる酒井コレクションのはじまり」とのことで、美人画あり、役者絵あり、武者絵あり、そして鯰絵もあった。

今回はこの鯰絵に釘付け。キャラクター化された鯰がかわいいことと、ビッシリと書き込まれた文字を読んでいたら堪らなく愛おしくなり、通ってしまった。

日本は地震の多い国である。古く日本人はそれを大鯰が暴れるからだと考えていた。茨城県の鹿島大明神には地中の鯰を抑えつける要石(かなめいし)なるものがあったりする。

この「地震太平記」は安政の大地震の後、鯰絵ブームの最中に刷られたものである。

地震は安政ニ年の神無月に起きた。神々は出雲に集まり、鹿島大明神も出雲に出張中。地震を知り、慌てて帰ってきた鹿島大明神が暴れた鯰を探し出そうとしているようだ。ビッシリ彫られた文字を解読してみよう。

鹿島大明神 「我、大社に発足し留守中、要石が油断見すまし夜中人の寝息をうかがって世情を騒がせ万物を損ずる事、先年も上方筋をはじめとして諸国を乱暴なし、あまつさえ海中の津波を手引きし騒動を企て、重々の不埒、言語道断。骨を抜き串にさして蒲焼となし、又は筒切りにしてスッポンにしても飽き足らぬ。一人ひとり白状いたせ」

老いたる古鯰 「恐れながら申し上げます。元禄十五年の大地震は私めでございます。ヲヲ、思い出すも涙、赤穂の侍が守備良く仇を討ちおおせ、やれ嬉しやと思う間もなく皆一同に切腹と聞いて驚き飛び上がる拍子に大地に頭をぶつけて後悔ひげを噛むとも詮なし。宝永の上方の地震はあの婆あが‥」

女の古鯰 「ハイハイ、私は、お恥もじながら千手観音さまがたかってなりませんから、ヒレでボリボリやっていましたら、肘がちょいと触ってお気の毒さま。瀬戸物屋さんなんぞ大層ご損をかけました」

百姓鯰 「わしらァハァ、文化元年に出羽国サァ揺さぶりましたものでございます。あにもハァ意趣遺恨ノゥ挟んだちうこんではおざりましないが、お女郎鯰がぬらくらと誘いますのではねつけてやりますべえ、と思ったのが一生の誤り、悪くは思わっしゃれますな」

別の鯰 「ハイ、わっちゃあ天保元年、京都を揺さぶりました。長屋の鯰の弔いに川並の股引きをはいて行きやしたら、あんよが痺れて堪えられずに貧乏ゆすりをしたところ京都は大騒ぎ。わっちゃあ申し訳ねえからヒゲを切って坊主になりました」

‥‥とても長いので二回に分けて読み進めたい。

女の古鯰が言う「千手観音さま」とはシラミのこと。足がいっぱいあるところからそう言われていたようだ。

百姓鯰は現代の落語の中に出てくるお百姓の話し方と全く同じものだ。落語好きとしては嬉しい発見。

別の鯰が言う川並の股引きはピッチピチのももひきのこと。川並の木場の職人が踵に紙を当てたりしながら何とか穿いた非常に細い股引きだった。それを穿いた鯰がお弔いに行くという発想が面白くてニンマリしてしまう。

全てを書き起こしている訳ではないが、長すぎるので次回に続く‥。