「まんじゅうこわいと怪談」 …
「まんじゅうこわいと怪談」
落語を聴かない人でも知っている「まんじゅうこわい」、江戸落語ではわりとシンプルな前座噺です。
実はこの噺、上方だと結構な大ネタなんです。つまり、実力がないとできない難しい噺。お勧めは六代目の笑福亭松鶴。鶴瓶の師匠だった人ですな。
近所の若いもんが集まって退屈しのぎに始めた好きな物の話が、嫌いな物、怖いものの話に移ってゆき、そこから怪談噺が始まります。
「あれはな、まだワシが二十歳かそこらの話や」
酒を飲んだ帰り道、通りかかった橋の上、若い女が川に向かって立っているのが目に入り「こんな時分に?」と訝しみながら近付くと、やおら欄干に足をかけ今にも飛び込もうとする。
「何をすんねや!」
後ろから抱き止めるが「死なしてください」「あほなことさらすな」の応酬が続く。いつまで経っても終わらないやり取りに、気持ちが冷めてゆく。それどころか女の聞き分けのなさに次第に腹が立ち、酔いも手伝って女を殴ってしまう。
「勝手に死にさらせ!」
その場を後にし、橋を渡り終えた時、後ろで「ドボーン」という水音を聞く。
「ああ、やりよったな」
と思うが振り返ることもせず、そのまま家へと向かうその道すがら。
「ジィタ…ジィタ…」
なにか濡れた草鞋で歩くような音が聞こえる。
「ジィタ…ジィタ…」
後ろをついてくる足音に思わず歩みが早くなる。すると後ろの足音も
「ジタ、ジタ、ジタ」
空恐ろしくなって駆け足になると
「ジタジタジタジタジタジタジタ」
追いつかれる。そう思って咄嗟に物陰に身を隠し覗き見ると、やはりさっきの女。目標を見失ったらしく前を通り過ぎ、キョロキョロと辺りを探している様子。このままどこかに行ってしまえ、と思ったその時
「クルリ」
振り返ると脇目もふらずこちらに向かって
「ジタジタジタジタジタジタジタ」
キャー‼︎
怖い怖い。
この後、皆さんの知る「まんじゅうこわい」に戻って例のサゲで終わるのですが、松鶴のこれを初めて聴いたときは衝撃でした。どんな怪談より怖かった。
実はこの時、すでに文珍、米朝の「まんじゅうこわい」を聴いていたのですが、それでも震えました。怖いのと上手いので一気に松鶴ファンになった夜でございました。
饅頭だろうが羊羹だろうが甘いものにはやっぱり熱いコーヒーが怖い派です。
落語を聴かない人でも知っている「まんじゅうこわい」、江戸落語ではわりとシンプルな前座噺です。
実はこの噺、上方だと結構な大ネタなんです。つまり、実力がないとできない難しい噺。お勧めは六代目の笑福亭松鶴。鶴瓶の師匠だった人ですな。
近所の若いもんが集まって退屈しのぎに始めた好きな物の話が、嫌いな物、怖いものの話に移ってゆき、そこから怪談噺が始まります。
「あれはな、まだワシが二十歳かそこらの話や」
酒を飲んだ帰り道、通りかかった橋の上、若い女が川に向かって立っているのが目に入り「こんな時分に?」と訝しみながら近付くと、やおら欄干に足をかけ今にも飛び込もうとする。
「何をすんねや!」
後ろから抱き止めるが「死なしてください」「あほなことさらすな」の応酬が続く。いつまで経っても終わらないやり取りに、気持ちが冷めてゆく。それどころか女の聞き分けのなさに次第に腹が立ち、酔いも手伝って女を殴ってしまう。
「勝手に死にさらせ!」
その場を後にし、橋を渡り終えた時、後ろで「ドボーン」という水音を聞く。
「ああ、やりよったな」
と思うが振り返ることもせず、そのまま家へと向かうその道すがら。
「ジィタ…ジィタ…」
なにか濡れた草鞋で歩くような音が聞こえる。
「ジィタ…ジィタ…」
後ろをついてくる足音に思わず歩みが早くなる。すると後ろの足音も
「ジタ、ジタ、ジタ」
空恐ろしくなって駆け足になると
「ジタジタジタジタジタジタジタ」
追いつかれる。そう思って咄嗟に物陰に身を隠し覗き見ると、やはりさっきの女。目標を見失ったらしく前を通り過ぎ、キョロキョロと辺りを探している様子。このままどこかに行ってしまえ、と思ったその時
「クルリ」
振り返ると脇目もふらずこちらに向かって
「ジタジタジタジタジタジタジタ」
キャー‼︎
怖い怖い。
この後、皆さんの知る「まんじゅうこわい」に戻って例のサゲで終わるのですが、松鶴のこれを初めて聴いたときは衝撃でした。どんな怪談より怖かった。
実はこの時、すでに文珍、米朝の「まんじゅうこわい」を聴いていたのですが、それでも震えました。怖いのと上手いので一気に松鶴ファンになった夜でございました。

饅頭だろうが羊羹だろうが甘いものにはやっぱり熱いコーヒーが怖い派です。